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第24回 ファランクス・フォーラムを開催しました 2015.05.25

はじめに

2015年5月13日(水)19:10より第24回 ファランクス・フォーラムを開催しました。参加したのはファランクス東京本社スタッフ41名。また、国内拠点2箇所(京都ラボ、沖縄支社)に向け実況中継を実施しました。




今回ゲスト講師を務めていただいたのは『ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国』の著者、日経BPビジョナリー経営研究所 日経BPイノベーションICT研究所 上席研究員 谷島宣之氏。

谷島宣之(やじま・のぶゆき)氏プロフィール

1960年生まれ。1985年電気通信大学情報数理工学科修士課程修了、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社、日経コンピュータ編集部に配属。日経ウォッチャーIBM版記者、日経ビズテック編集委員を経て、2007年から日経ビジネスオンライン、日経コンピュータ、ITproの編集委員。2009年1月から日経コンピュータ編集長。2011年6月から日経BPビジョナリー経営研究所。2013年から現職。 著書に『ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国』『システム障害はなぜ起きたか』、『動かないコンピュータ』(いずれも日経BP社刊)がある。プロジェクトマネジメント学会員、ドラッカー学会員。

今回は「150年前からある大問題とプロフェッショナルがとるべき姿勢」というテーマで、国内・海外におけるソフトウェア開発体制の違い、日本固有のソフトウェア開発体制特有の課題、さらにビジネスパーソンのプロフェッショナリズムについて、様々な角度から語っていただきました。



ソフトウェア、それが問題だ ~Software matters

伝統工芸から電化製品まで手にとって見ることのできる、日本のモノ・商品は海外からも品質が高く評価され、市場を拡大していると言えます。

一方、日本で開発されたオリジナルのソフトウェアが海外市場で浸透するケースはきわめて稀だということを谷島氏は長い記者生活を通して認識したといいます。その理由のひとつに、日本のソフトウェアは維持や拡張がしにくいことがあるそうです。最初に作ったときは機能が豊富で品質も高いのですが、長く使う商品としての質に実は問題があるということになります。

日本のソフトウェア開発現場では、顧客に求められた機能は脇間もふらずにどんどん実装していくものの、ソフトウェア全体を最適な状態にもっていくことを視野に入れて開発することが苦手で、多くの場合、その場しのぎの機能追加や改修が繰り返されていると谷島氏は指摘します。その結果、ソフトウェアが“雑草”だらけの混沌としたものとなり、通常の維持管理だけでなく、後からの拡張がしにくいものになる。

こうした問題は顧客向けのソフトウェアだけではなく、商品として販売するソフトウェアにおいてもおきがちで、それがソフトウェア販売の国際競争力の弱さにつながっていると言います。

グランドデザインの必要性

こうした課題を解決するために、ソフトウェア開発にグランドデザインの視点を取り入れることを谷島氏は提案します。



グランドデザインとは、実現しようとする何かの全体像を描き、全体の構造と構成要素を定義したもの。
この言葉は和製英語のようですが、気まぐれに生まれた言葉ではなく、日本語特有のデザインという言葉・概念の捉え方を前提にすると、必要な表現だということが言えそうです。

なぜなら、英語でデザイン(設計)というとかなり広い意味になり、社会や生活場面の問題解決を視野に入れた設計や提案といった意味合いを持つ一方で、日本では美的センスを中心とする「デザイン(意匠)」といったせまい範囲で意味を完結させようとする傾向があるからです。そのため、グランドデザインという言葉はより大きな視点でデザイン(設計)を捉える上で有効な表現だと言えるのではないでしょうか。

開発に複数の人間がかかわるソフトウェア開発において、グランドデザインを描き、それをチームでコントロールしていくことはソフトウェアの品質を保つために不可欠となります。開発リーダーやサブリーダーにあたる人々がどんなグランドデザインを描くについてはさまざまなフレームワークや手法があり、それぞれは有効です。

ただし全体像を描いたら、それを描いた担当者が、開発工程の各段階や開発チームのさまざまなレイヤーでグランドデザインが機能するよう、関係者を巻き込むだけでなく、自ら動いていく必要があります。こうした取り組みをすることで、グランドデザインを検証でき、描く能力を高めていけると谷島氏は言います。

プロフェッショナルの責任

プロジェクトマネージャーのコミュニティ組織として、PMI(Project Management Institute)があります。ソフトウェア開発だけではなく、建設、宇宙、製造などさまざまな業種業界のプロジェクトマネージャーが集まっています。このPMIがプロフェッショナルとは何かという議論をコミュニティの中で繰り返し、それをまとめて「プロジェクトマネージャーのプロフェッショナル責任」というものを定義しました。

職種を問わず参考になる内容だとして、谷島氏からそれぞれについて解説がありましたが、ここではその中から2つにしぼってお伝えします。

個人の能力の増進

世界、時にアメリカではプロフェッショナルとして個人の能力を伸ばすのは当たり前になっています。なぜならプロとしての能力に基づいて会社と契約しているからです。少々余談になりますが、そういった意識が強いのでアメリカのビジネスパーソンは自分のためになると思えば高額のセミナーでも自腹で費用を払って参加する人が少なくありません。一方、日本で有料セミナーを開催すると、金額がさほど高額でなくとも、資格がらみのものでない限り集客が難しい現状があります。自腹で費用を払ってまでも新しい知識やノウハウを身につけようという自己投資の意識がアメリカと比較すると希薄な印象を持たざるをえません。

専門領域の知識ベースへの貢献

日本のビジネスパーソンは会社内のプロジェクトには惜しみなく自分の時間も労力も提供しますが、それ以外の時間で自分の専門領域の新たな知識やノウハウをアップデートしようと努める人々は案外少ないです。会社の仕事で十分に学んでいるという見方もできますが、悪くとれば自分のスキルが会社の都合で左右されてしまうことになります。

一方、アメリカのプロフェッショナルは自分の会社への貢献だけでなく、自分の専門領域への貢献を常に考えています。だからこそ、広い視野で学び続ける姿勢が保てるようです。たとえば、自分の業務で新しい知見を得たら、自分の所属する専門領域のコミュニティにそれを還元します。また、コミュニティで得た新しい知識やノウハウを自分の業務で試してみることを通して専門領域の知識やノウハウを常にアップデートしている人が多いそうです。オープンソースソフトウエアのプロジェクトがアメリカで活発なのは、職業人の知的コミュニティが発達しているという背景があります。

  このように、アメリカの開発プロフェッショナルは、自分の能力を磨くために自己投資を惜しまないだけでなく、自分の専門領域への貢献まで視野に入れて、知識やノウハウをアップデートし続けているようです。当然ですが全員がそうだということではありません。個々人をみると日本には優秀なエンジニアが沢山います。ただ、良くも悪くも考え方、姿勢に違いがあるということです。

おわりに

今回の講義内容はかなり多岐にわたっていたので、ソフトウェア開発エンジニアに関連するところを抜粋して紹介しました。目の前の仕事に没頭することは必要だけれども、それだけではなく、俯瞰的な視野で自分の仕事やスキルを見つめ、プロジェクトの全体最適化を図り、自らの能力を自分で継続的に向上させていく姿勢が大切。これが講義の中で一貫して繰り返された指摘だと思います。


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